2027年4月に始まる「育成就労制度」を前に、日本語教育の受け皿不足が新たな課題として浮かび上がっています。
2026年10月5日の日本経済新聞は、育成就労で来日する外国人が年間約15万人と見込まれる一方、日本語教育機関などが現在受け入れ可能とする人数は約7,500人にとどまると報じました。単純に比較すれば、20倍の開きがあります。しかし、この数字だけを見て「日本語教師が足りない」と結論づけると、問題の全体像を見誤る可能性があります。日本の日本語教育は今、育成就労制度の開始とは別に、もう一つ大きな制度変更の最中にあるからです。
2027年から「働く外国人」にも日本語教育需要
育成就労制度では、外国人が就労を開始するまでに、日本語能力A1相当以上の試験に合格するか、認定日本語教育機関の「就労」課程などでA1相当の講習を100時間以上受講することが求められます。さらに3年間の育成就労期間中には、A2相当を目標とする講習を100時間以上受講する機会を提供する必要があります。試験に事前合格している場合には講習が不要になるほか、一部を本国で受講することや、一定の要件を満たしたオンライン講習も認められています。したがって、「年間15万人全員に200時間の対面授業が必要」という意味ではありません。それでも、これまで留学生教育を中心としてきた日本語教育市場に、2027年から「働く外国人」という大きな新需要が加わることになります。出入国在留管理庁は、育成就労制度における日本語能力向上のための措置について、育成就労実施者側が必要な教育機会を確保する制度を示しています。従来の留学生を中心とした日本語教育とは異なる、企業・就労側から発生する日本語教育需要が新たに加わることになります。
同時に進む「認定日本語教育機関」への移行
もう一つ見逃せないのが、認定日本語教育機関制度です。現在の法務省告示日本語教育機関には経過措置が設けられていますが、今後も「留学」の在留資格による学生を受け入れて日本語教育を行っていくため、日本語学校では認定日本語教育機関への移行対応が進められています。2026年10月7日現在、文部科学省の日本語教育機関認定法ポータルに掲載されている認定日本語教育機関は96機関です。一方で、既存校の認定移行は現在も進行中です。認定申請の結果も、単純に「申請すれば認定される」という状況ではありません。2026年4月30日に文部科学省が公表した認定結果では、申請100機関に対し、認定32機関、不認定2機関、継続審査13機関、取下げ53機関となっています。さらに、認定を取得すれば直ちに受入人数を大幅に増やせるというわけでもありません。出入国在留管理庁は、既存の日本語教育機関が認定を受ける場合の定員変更について一定の取扱いを示しており、認定後の教育体制の拡大にも制度上の手続や条件があります。つまり、今後日本語教育への需要が増加したとしても、供給能力を短期間で増やせるとは限りません。
留学生は減っているのではない。過去最多になっている
ここで重要なのが、日本語教育への需要そのものです。日本学生支援機構(JASSO)によると、2025年5月1日現在、日本の外国人留学生は408,069人。前年比21.2%増となり、過去最多となりました。そのうち、日本語教育機関の留学生は140,174人。前年の107,241人から32,933人増、30.7%増となっています。さらに、専修学校(専門課程)の外国人留学生は106,829人で、前年比39.8%増となりました。
| 教育機関 | 2025年外国人留学生数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 日本語教育機関 | 140,174人 | +30.7% |
| 専修学校(専門課程) | 106,829人 | +39.8% |
| 大学(学部) | 92,442人 | +5.7% |
日本語教育機関と専門学校は、現在の日本の留学生市場で特に大きく伸びている領域です。つまり、日本語学校の認定制度への移行は、需要が縮小している市場で行われているのではありません。むしろ外国人留学生が急増している局面で、日本語教育の供給体制そのものが組み替えられています。
問題は日本語学校だけで終わらない
日本語学校は、日本語を教える場所というだけではありません。海外から日本へ来た留学生にとって、日本国内で進学し、就職していくための入口の一つでもあります。
海外
日本語教育機関
専門学校・大学
日本企業への就職
したがって、仮に認定制度への移行過程で日本語教育機関の学校数や受入定員が減少すれば、その影響は日本語学校だけでは終わりません。数年の時間差を伴って、専門学校や大学への外国人進学者、さらに日本企業が採用できる外国人新卒人材の母数にも影響する可能性があります。ただし、現時点で「2029年に日本語学校が何校減る」「留学生が何万人減る」と予測できるだけの確定データはありません。認定申請は現在も続いているためです。だからこそ、今後の認定移行の進捗と、各校の受入能力を継続して確認する必要があります。
「留学生」と「働く外国人」が同じ教育資源を必要とする
2027年以降の日本語教育を考えるうえで、もう一つ重要な点があります。日本には現在、14万人を超える日本語教育機関の外国人留学生がいます。そこへ育成就労制度による、新しい日本語教育需要が加わります。必要になるのは、いずれも日本語教師、教室、教育課程、そして教育時間です。もちろん育成就労では、オンライン教育、本国での一部受講、試験合格による講習免除などが認められるため、すべての需要が既存の日本語学校に集中するわけではありません。
それでも、
「留学生を教える日本語教育」と「働く外国人を教える日本語教育」を、日本全体としてどのように両立させるのか。
という課題は残ります。約7,500人という現在の受講可能人数は、その問題を早くも示している可能性があります。
日本は外国人から「選ばれる国」であり続けられるか
日本への留学を希望する外国人にとって、進学先は日本だけではありません。韓国、オーストラリア、ドイツをはじめ、各国が外国人学生や外国人材を受け入れています。日本国内に十分な教育機会がなければ、海外の学生が日本の学校に空きが出るまで待つとは限りません。学費、生活費、為替、卒業後の就職機会、在留制度などを比較し、別の国を選択する可能性があります。特に一度、海外の教育機関や留学エージェントが他国向けの教育・送客ルートを構築すれば、それを再び日本向けに戻すには時間がかかります。日本語教育の受入能力は、単なる教育政策の問題ではありません。専門学校、大学、そして外国人材を必要とする日本企業までつながる「人材インフラ」の一部として考える必要があります。
2027年、そして2029年を見る
2027年4月、育成就労制度が始まります。一方、日本語教育機関では認定日本語教育機関への移行が続き、外国人留学生数は過去最多となっています。育成就労の日本語教育を誰が担うのか。認定日本語教育機関への移行はどこまで進むのか。日本語学校は現在の留学生を受け入れながら、新しい就労者向け日本語教育需要にも対応できるのか。そして、日本語教育の供給力が変化したとき、その影響は専門学校、大学、日本企業の外国人採用へどこまで及ぶのか。約7,500人という数字は、日本語講習の不足だけを示す数字ではないのかもしれません。日本がこれから外国人留学生と外国人材をどれだけ受け入れられるのか。その入口となる「日本語を学ぶ場所」の供給力を、改めて確認する時期に来ています。
参考資料
- 日本経済新聞(2026年10月5日)「27年春開始の育成就労、日本語教育の受け皿7500人分」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度」
- 文部科学省「日本語教育機関認定法ポータル」
- 文部科学省「日本語教育」
- 日本学生支援機構(JASSO)「外国人留学生在籍状況調査」
※本記事は2026年10月7日時点の政府資料・統計・報道を基にした原稿です。数値および制度の記述は今回新たに原典照合したものではありません。公開前に確認が必要です。